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「富士山が噴火したら」…御嶽山噴火をまたぎ、中学生が真剣議論

富士山が火山活動を開始し、災害が発生したとき、どう地域と関わり、何をすべきか-。今年7月から4カ月間、山梨県側の富士山のふもとにある富士吉田市立吉田中学校1年生が、当地の堀内茂市長から3つのミッション(使命)を受け、議論を重ねて「中学生にできる取り組み」をまとめた。取り組み内容は全国の活火山周辺31市町村が中心となり、11月6日に同市で開いた「2014火山砂防フォーラム」で発表された。

 依頼されたミッションは、(1)富士山噴火にリアリティー(現実味)を持ってもらうにはどうしたらよいか(2)災害弱者の幼児、高齢者を安全にすみやかに避難させることができるか(3)避難所生活を送ることになったとき、市民の心をひとつにして暮らし続けるためにどうしたらよいか-についてまとめることだった。中学生は7月中旬からまず、クラス単位でNPO法人土砂災害防止広報センターの講師や山梨県富士山科学研究所の研究員らを招き約10時間、富士山噴火について学び、基礎知識を得た。この中では富士山噴火史に触れ、富士山の大噴火は15万年前が最古とされていたが、30万年前に大噴火があったことや、宝永噴火(1707年)では江戸に火山灰が積もったが、吉田中がある富士吉田市上吉田辺りに降灰がなかったことを知った。富士山が噴火したとき、やみくもに逃げるのではなく、風向きが大事であることを学んだ。女子生徒の1人は「噴火は怖い。でも噴火のメカニズムを知ることで、避難方向を選べば影響が少ないことが分かった」と話していた。こうした学習が生徒たち自身のリアリティー醸成となったようだ。

 生徒たちは各クラスでさらに班分けして、富士山が火山活動を再開した場合に「どんな問題が起きるのか」をテーマに議論した。「電気・ガス・水道が止まる」「公共交通のまひ」「食糧不足」「観光客に避難所がわからない」「逃げ遅れる人が出て、パニックが起きる」などの社会生活、避難行動での混乱を予測。また、降灰、噴石などにより死傷者が出ることも予測した。これは多数の死傷者が出た9月27日の御嶽山(長野、岐阜県)噴火より前の議論だったが、実際に噴火で死傷者が出たことで、噴火のメカニズムを知って状況予測することが非常時の対応にも生かされることが裏付けられる。

 次に生徒たちは、「ではどんな対策・行動が必要か」を検討。「家庭に食料を置いておく」「スーパー、コンビニに食料提供を事前に依頼する」「情報を得るためのラジオの準備」「観光客に避難訓練を体験させる」「観光客にハザードマップを配る」「(観光施設)周辺に安全な場所があるか、確認しておく」「小中学校にも防災無線が聞き取れるようにしておく」などの行動、対策を示した。

 堀内市長から依頼されたミッションについてはどうなのか。学習した中学生と同様に一般市民がリアリティーを共有するには、「地域内の災害弱者を確認し、一緒に避難訓練を行う」「避難訓練は毎月繰り返し行う」「ハザードマップを見て、溶岩流が流れてこない道をみんなで覚えておく」「避難所、避難場所を清掃、整備しておく」などを提起した。平常時に訓練を繰り返すことで、足りないことが何かを見極めようという考えだ。

 「災害弱者の幼児、高齢者を安全に、すみやかに避難させることができるか」では、「いつ」「だれを」「どこに」「どうやって」避難させるかをテーマに議論した。そして噴火警戒レベル1(平常時)で避難時のルールを決めておくべきだとした。安全な場所を知っておく、避難ルートを決めておく、“いざ”ということきは最初に幼児やお年寄りを避難させる、高校生や大学生に誘導を頼んでおく-などが肝心だとした。

 最後のミッション「避難所で市民が心を一つにして暮らし続けるには」では、ブレーンストーミング(集団でアイデアを出し合う)を行った。もし避難所の体育館で市民300人が避難生活を送ることになったら、どんな問題が起きるか。プライバシー、トイレ問題、育児、日用品不足、お風呂、そしてストレスなどの面で検討。就寝時間には光や音を出さないよう段ボールなどで居住空間を仕切る、赤ちゃんがいる人たちは授乳にも考慮して別のスペースを設ける、避難所近くに仮のスーパーを設置する-などを提案。さらにストレスがたまるとケンカなども起こしやすくなるため、周囲の人たちとコミュニケーションを取り、災害に関する情報を共有し、ストレス解消に朝のラジオ体操、避難所ウオーキング大会開催、みんなでできるゲームで楽しむことなどを提案した。“避難所暮らしでウオーキング大会なんて”と考えそうだが、心神が疲弊した被災者には血行を促すことでストレス緩和になり、エコノミー症候群を防止する効果があるとした。東日本大震災では数多くの歌手やタレントが被災地を訪れ、ミニコンサートなどは被災者に生きる勇気を与えたことなどから、「芸能人を呼ぶ」との意見もあった。

 フォーラムでの発表後、壇上で聞いていた富士山科学研究所長で火山噴火予知連絡会長の藤井敏嗣氏が「噴火活動に対する準備の必要性が十分に中学生に理解されたようだ。自分で行動できる市民になることは重要。盛りだくさんのテーマをアップしてくれた」と中学生の研究を評価した。ミッションを提示した堀内市長は「あらゆるケースを考えて取り組みと手法を中学生が考え出した。取り入れられる対策を防災計画に生かしたい」と話した。