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16年度経常益倍増見込む、意外なリニア関連銘柄

2027年の開業に向けていよいよ着工が始まったJR東海のリニア中央新幹線。12月中旬には起点となる品川駅(東京)と名古屋駅(愛知)近辺で「工事安全祈願式(起工式)」が行われ、準備工事がスタートした。株式市場でもあらためてリニア関連銘柄の物色が行われそうな情勢だ。

 そうした中、意外なリニア関連銘柄として注目されそうなのが、製紙業界中堅の特種東海製紙 <3708> だ。同社は、ファンシーペーパーや高級印刷紙など特殊紙に強い旧・特種製紙と、段ボール原紙やクラフト用紙など産業素材に強い旧・東海パルプが07年に経営統合して発足した独立系の製紙会社。旧・東海パルプ系の子会社で手掛けてきた業務用ペーパータオルやトイレットペーパーなど家庭紙も、3本目の収益柱に育っている。

 その特種東海製紙がなぜ、畑違いも最たるものといえそうなリニア中央新幹線とかかわることになったのか。

■「100年間の累積赤字」に千載一遇のチャンス

 「100年にわたってこの山を維持・管理してきたが、正直言って事業収益としては相当な累積赤字だった。その意味では、妥当な言い方ではないかもしれないが、ある意味で“千載一遇”のチャンスが来たと思っている」ーー。

 11月末に開かれた第2四半期決算説明会で、特種東海製紙の三澤清利社長はこう説明した。

 三澤社長のいう「この山」とは、同社が静岡県内に持つ社有林を指す。社有林とはいえ、静岡市北部に広がる南アルプスを中心に約7400万坪(約2万4430ヘクタール)もの広さを誇り、「民間で保有する民有地1カ所としては日本最大」(三澤社長)で、JR山手線で囲まれた面積の約4倍に相当するという。製紙会社だけに紙の原料となる木材生産の場として位置づけられてきたが、同社有林内には2000メートルを超える山が47山、うち3000メートル超が10山に及び、登山をはじめとした森林レクリエーションスポットとしても注目度が高い。

 実は、JR東海のリニア中央新幹線は、静岡県内ではもっぱら、この同社の社有林地下を通過するのだ。

 リニア新幹線そのものは、山間部にかぎらず都市部などでも多くの場合、大深度地下のトンネル内を走行するため、走行区間のすべての土地を地権者から買ったり、賃借する必要はない。特種東海製紙が社有林として保有する静岡県内の南アルプス地帯でも、リニア新幹線のトンネルは11キロメートルの距離を通過するが、山の高いところから約1400メートル下(海抜にして1200メートル程度)を通るため、JR東海に対する土地売却などが発生するわけではない。

 が、何といっても日本屈指の高山地帯で、しかも最大で地下1400メートルもの大深度を掘り抜くトンネルだけに、横(水平方向)から掘る工法は難しく、縦坑を掘ってから横に掘り進む工法を採らざるをえない。となると、ところどころ縦坑を掘る場所が必要になることに加えて、縦坑から発生する膨大な残土(360万立方mと試算)の処分場を確保しなければならない。さらに、約10年にも及ぶ工事期間の間、最大700人の工事関係者が駐在する宿舎や、食事などの賄いも必要になる。

 特種東海製紙が“千載一遇”のチャンスとして期待しているのが、こうしたリニア工事に当たって発生するさまざまな収益機会の取り込みだ。縦坑などを掘る際の工事用地の賃貸提供や、工事関係者向け宿舎・賄いの提供、大量の土砂の「土捨場」設置、さらには、山岳地での土木工事を得意とする子会社・東海フォレストの工事参加等による事業収益を同社では想定している。

 もちろん、14年6月にユネスコのエコパークにも登録された南アルプスでの工事だけに、JR東海に協力するに当たっては、自然環境保護が大前提。社有林内に想定される土捨場の候補地についても、「植林するなど、過去100年の間に1回は人の手が入って、大きな災害を引き起こさなかったところを選定した」と三澤社長は説明する。

 それでは、特種東海製紙がリニア工事に協力することに伴う実際の収益寄与はどの程度になりそうなのか。

 足元の今2015年3月期業績見通しは、通期で売上高が前期比1.1%増の790億円とほぼ横ばいながら、営業利益は21.4%減の25億円、経常利益も26.2%減の26億円と大幅減益を計画。円安に伴う資材価格高騰に加え、「将来の成長」に向けた成長戦略費用が利益の圧迫要因となる。

■「売電」「リニア」で再来期経常益は倍増?

 ただ、今期からスタートした第3次中期経営計画(3カ年)によると、中計最終年度の再来期2017年3月期には経常利益目標が50億円と、今期計画からのほぼ倍増を掲げている。増益要因の中でも目立つのが「赤松水力発電所」と「リニア」だ。

 赤松水力発電所はもともと、段ボール原紙やクラフト紙など産業用紙の生産拠点である同社・島田工場(静岡県島田市)向けに電力を供給していたが、14年1月から更新工事を行い、今期の購入電力費用が5億円強増える要因となっていた。こういった費用が今期の成長戦略費用の拡大要因になっている。が、赤松水力発電所は15年3月からFIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)適用の売電を始める予定。経常利益の押し上げ額は12.2億円と想定されている。

 一方、リニア関連事業の経常利益に対する寄与額としては、同社側では4.8億円と想定。実際にはJR東海との交渉などに大きく左右される面もあるが、三澤社長は「(初年度で5億円前後というのは)ミニマム。その先はそういうレベルで考えているわけではない」と、先行き収益が拡大する可能性をも示唆している。

 製紙業界では、印刷用紙や段ボール原紙などを中心に需要の減退・伸び悩みが続いているうえ、足元の円安進行を受けて原料チップや古紙など原燃料のコストアップが採算を圧迫している。特種東海製紙においても、産業素材事業のうち段ボール原紙や、特殊素材事業の中でも情報用紙や特殊印刷用紙は需要低迷の影響を受けているが、生活商品事業ではトイレットペーパーなど家庭紙の大王製紙向けOEM販売が順調に推移し、連結業績を下支えする格好となっている。

 赤松水力発電所の更新工事など将来の成長に向けた成長戦略費用が一巡する来16年3月期に、本業の製紙事業を含めて、まずは業績底打ちを果たすことができるかどうか。それが、中期計画達成の試金石となりそうだ。