シンガポールではここ数年で日本酒が若い世代にも裾野を広げている。
以前は日本料理屋やすし屋で富裕層が楽しむものだったが、最近では日本酒を扱う店も増え、もっと手軽に楽しまれている。街のスーパーでも扱う店が増えている。とはいえ、まだ日本酒の価格は他のアルコールに比べて高く、高級酒の部類にはいる。
日本には素晴らしい蔵元がたくさんあり、もっと一般の人にも日本酒のおいしさやバラエティを知ってもらいたい、とシンガポールで日本酒の普及を目指すSISI limited阿部太一氏にお話を伺った。
1年程前においしい日本酒を世界に広めたいと日本酒素人の有志が集まりプロジェクトをスタートしたのが始まりだ。有志のうちの一人は新潟出身で、酒蔵が周りに多くあったことがプロジェクトの実現に大きく寄与したという。
「何故我々ど素人がこのプロジェクトを始めたかといいますと、シンガポールにおける日本酒の価格が恐ろしく高かったからです。
日本で720ml 1,300円ほどの銘柄がシンガポールでは約4,000円〜5,000円します。スーパーなどの小売店で販売している物も日本の価格の3倍近くします。シンガポールで日本酒が高い理由として言われているのは、国内外で発生する輸送コストが大きな要因をしめ、更に課される関税が非常に高いのです。しかしひとつひとつ調べていくと、削れるコストがかなりありそうだということに気づきました。つまり、ビジネスとして成り立つのではないかと。そして、これだけ高価にも関わらず輸出量が増加傾向だということが行動を後押ししました。
具体的な例をあげると、日本からシンガポールまでを最も安くつなげそうなルートを調査し、少し時間はかかっても競争力ある価格を設計することを最優先事項にしました。また、当時調査していた時に多くのレストランが冷蔵便で配送することを望んでいましたが、実際蔵元に足を運んで話を聞いてみると殺菌処理をしていない「生」のお酒以外は冷蔵便で送らなくとも品質に大きな問題はないということでした。」
そして最終的には、当時のシンガポールの卸値から約20%ほどは安く提供できる算段がついたという。
「今となっては、当たり前になっていますがこういったこともわからないずぶの素人でした。ただ、それは日本酒を扱う飲食店側も同様で、我々が日本での当たり前を伝えることで理解して取引をしてくれるお店が増えていきました。」
シンガポールは高所得者が多く、日本食ブームもあって高い価格で販売できる市場だ。しかし、適正な価格にしてもっと多くの人に身近に楽しんでもらう、みんなが手軽にのめるマーケットにしよう、この点に賛同してくれるディストリビューター、飲食店、小売店に卸している。
「シンガポールでは日本酒は『高級酒』ととらえられていますが、本来は大衆酒。もちろん日本酒にも高級酒はありますが、一般的にはビールや焼酎と同じように日常的に楽しむものです。シンガポールでももっと日常的に楽しんでもらいたいです。」
「最初はノリで始めた部分も多かったのですが、日本酒の世界を知れば知るほどにどっぷりつかってしまって、メンバーの一人は利き酒師の資格を取るまでに至りました。日本酒をワールドスタンダードのお酒にしたいと思っています。」
その足がかりとして新しいサービスをシンガポールを含めた複数の国向けにリリース予定だそうだ。
常夏のシンガポールで日本酒がより身近になるのは楽しみだ。