無料相談受付中

社会資本は、人口減と将来世代負担を考えよ

 日本創成会議が発表した提言、「東京圏高齢化危機回避戦略」の波紋が広がっている。団塊世代が高齢化することによって東京圏では今後急速に高齢化が進み、介護施設の不足が深刻化する。問題解決策の一つとして、東京圏の高齢者の地方への移住を促進しようという提言は物議をかもしている。

東京、神奈川、千葉、埼玉の一都三県(以下東京圏)では今後急速に高齢化が進行し介護問題が深刻化するということは、これまでも指摘されてきた。国立社会保障・人口問題研究所の予測によれば、2010年から2025年までの間の75歳以上人口の増加率は、日本全体では32.4%だが、東京圏では44.1%にも達する。全国平均を上回る速度で、東京圏の医療や介護体制の整備を進める必要があることを意味している。

■ 地方では介護を行う人材の確保が難しい

 しかし、提言では「介護施設整備費は東京は秋田県の2倍。介護給付費は20%上乗せ」と東京圏での介護を充実させることが高コストであることを強調し、東京圏の高齢者が介護施設に余裕のある地方に移住することを解決策の一つとしている。これに対して、受け入れが予想される地域からも、送り出す側の東京圏の自治体からも様々な意見が出ている。

 東京圏では高齢者の増加速度は著しいものの、2025年の65歳以上人口比率は27.2%と予想されており、全国平均の30.3%を下回る。75歳以上の後期高齢者の比率も、2025年時点で東京圏では16.3%に上昇するが、全国平均はこれを上回る18.1%に達すると予想されている。

 つまり東京圏では他の地域に比べて高齢化が進むのが遅れていたので、今後急速に介護などの問題が大きくなるが、他の地域よりも程度がひどくなるわけではない。高齢化率が東京圏よりも高くなる地域では、施設があっても介護を行う人材の確保がより困難になる恐れもある。

 さらに高齢者の生活は介護だけで成り立つわけではなく、家族や親戚、知人・友人とのつながりも欠かせない。現在施設に空きがあるということだけで、大規模な高齢者の移動が起きるとは期待し難い。高齢者の移住があったとしても、東京圏で介護問題が今後急速に深刻化することは確実で、介護・医療施設の建設や人材の確保に相当な資金と人材を投入することが必要になる。

 少子高齢化がもたらす問題は、介護や医療の問題だけではない。これまで増加を続けてきた人口が長期にわたって減少を続けるという、これまで経験したことのない状況に対応しなければならない。日本の人口は2008年頃をピークに減少傾向に転じた。国立社会保障・人口問題研究所の予測では、日本に住む人の数は2048年には1億人を割り込み、2060年にはさらに8674万人へと減少していくと見られている。

 政府は、「経済財政運営と改革の基本方針2014」(いわゆる骨太の方針)の中で、「人口急減・超高齢化に対する危機意識を国民全体で共有し、50 年後に1億人程度の安定した人口構造を保持することを目指す」との方針を打ち出している。人口が増加を続けることも、逆に減少を続けることも好ましいことではなく、ほぼ一定の水準で安定するのが望ましいことは本欄の「なぜ人口を安定させることが必要なのか~増え続けることも減り続けることも問題」(2014年7月)で述べた通りだ。

■ 人口の減少を前提に「減築」と「リフォーム」を

 しかし、人口減少を止めるためにこれまで以上に力を注ぐとはいっても、日本の人口が安定するのは相当先の話になる。国立社会保障・人口問題研究所の予測では、出生率が高いケースでも2054年には日本の人口は1億人を割ってしまうと見られている。

 人口は、相当な政策努力によって1億人を維持できたとしても、最も多かった2008年12月の1億2809万9千人からは、4分の3程度に減少してしまう。したがって、少子化対策に力を入れれば人口減少への対応が不要になるという話ではない。

 これまで日本では、住宅や個人の生活を支える道路や上下水道、電気やガスなどの生活インフラや学校から医療施設に至るまで、すべての社会資本は人口増加に対応して整備が進められてきた。しかし、今後は人口の減少が見込まれるのだから、人口規模の縮小に合わせた社会資本の整備が課題になる。

 人口が減少に転じているにも関わらず量の拡充が続いてきたことでおきた現象の典型的な例は住宅だろう。総務省統計局「住宅・土地統計調査」によれば、戦後間もない1958年には、住宅数は1793万戸で総世帯数1865世帯を下回っており、1世帯当たりの住宅は0.96戸と住宅ストックが明らかに不足していた。しかし、1978年には1世帯当たりの住宅は1.01戸と住宅数が世帯数を上回るようになり、2013年では住宅数は6063万戸と世帯数の5246万世帯を大きく上回って、1世帯当たりの住宅は1.16戸に達している。

 その結果、2013年時点では日本の住宅の13.5%に当たる820万戸は空き家で、誰も住んでいない。都道府県別にみると、別荘が多い長野県や山梨県の空き家率は高いが、別荘のように時々利用するために保有されている2次的住宅は40万戸程度で、空き家全体の5%を占めるに過ぎない。

 820万戸の空き家のほとんどは、借り手が見つからない賃貸用住宅や、誰も使っていない住宅だ。大都市の空き家率は低く地方の空き家率は高いという傾向があるなど、地域的な差は大きいものの、全国的に見れば日本の住宅はかなりの余剰がある。

 2008年をピークに日本の人口は長期的な減少が予想されているが、高齢の単身世帯の増加によって世帯規模が小さくなるために世帯数の増加はしばらく続く。それでも世帯数は2019年をピークに減少に転じると見られている。それぞれの住宅の面積や設備など質の面で住宅投資の必要性はなくならないものの、単純に住宅の数を増やすという意味はなくなっている。

 子供が巣だった後の老夫婦だけが住む住宅では、子供部屋があっても物置としてしか使われず、世帯規模に合ったサイズへの減築や、夫婦だけの世帯に使いやすいような間取りへのリフォームが行われるようになっている。日本社会全体でも1億3千万人が住むための社会資本から、約1億人が住むのに十分なだけの社会資本へと「減築」が必要であり、人口構造の変化に合わせた社会資本の中身のリフォームも必要だ。

■ 社会資本を整備、維持する余力も限られる

 これまで人口が増加し社会活動が右肩上がりに拡大することを前提に整備されてきた社会資本や地域の公共施設なども、単純計算では4分の1は使う人がいなくなってしまう。社会が変わり、年齢構成が変わって需要が変化することを考えると、施設によってはもっと多くの割合が不要になってしまうはずだ。

 人口高齢化がさらに進めば、新たな社会資本の整備をする余力は低下していき、地域の住民への行政サービスの提供もより困難になっていくのは確実だ。少ない資源をより有効に使って、その時代に必要となる社会資本を整備したり、サービスを提供したりすることに知恵を使わねばならない。

 社会資本は貴重な資産だが、維持や更新に相応の費用をかけなくては使い続けることができない。人口に対して過大な施設は利用者の減少で維持・運営していくコストも賄えなくなるだろう。使われなくなった建物などでは倒壊の危険があるので、放置しておくわけにもいかず取り壊しが必要になるが、それにも費用がかかる。

 今後整備される社会資本のかなりの部分は、国や地方自治体の借金で建設され、将来世代は債務の返済負担も迫られる。われわれが今欲しいと思うものを作り続けるだけでなく、将来世代のために真に役に立つものに絞り込むよう、選択と集中が求められている。