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「結核」いまだ減らない日本 “中蔓延国”になってしまう理由

東京五輪が開かれる2020(平成32)年に向け、日本の結核患者を減らす計画が始まった。「過去の病気」と思われがちな結核だが、日本は人口10万人当たりの患者数が16・1人(25年)と高く、「中蔓延国」に分類される。3月24日は世界保健機関(WHO)が定めた世界結核デー。先進国の多くが10万人当たり10人以下の「低蔓延国」の中、国内でも患者を減らす取り組みと、新たな治療薬開発などの技術革新が進められている。

 結核は結核菌に感染し、主に肺に炎症が起きる病気。2週間以上続くせきやたん、だるさ、微熱などの症状が出る。昭和25年までは日本人の死因の1位で、年10万人以上が死亡していた。その後、生活水準の向上や治療薬の開発などにより大きく減ったが、現在も年間約2万人が感染し、25年には2084人が死亡した。人口10万人当たりの患者は16・1人で、10人を切っている米国(同3・6人)、ドイツ(同5・6人)、フランス(同8・2人)などに比べて高い。

 患者が減らない理由のひとつは高齢化だ。日本と世界の結核対策を行う結核予防会結核研究所(東京都清瀬市)の加藤誠也副所長は「平成25年は患者の64・5%が65歳以上で、21・1%は85歳以上だった。高齢化社会に伴い、感染者も高齢化している」と解説する。

 結核菌は、感染しても体の抵抗力が強ければ発病せず、“休眠”状態に入る。加藤氏によると、高齢者は抵抗力が低下するため過去に感染した結核が発病したり、新たに感染して発病したりすることが多いという。また、せきやたんなど典型的な症状が出なかったり、認知症で症状を訴えることができなかったりして発見が遅れることもある。

 高齢化だけでなく、都市化も結核を減らしにくい要因のひとつだ。厚生労働省の集計(25年)によると、結核患者の割合が高いのは、大阪府(10万人当たり26・4人)▽和歌山県(同20・6人)▽東京都(同20・1人)▽長崎県(同19・9人)▽兵庫県(同19・8人)-の順。逆に低いのは、山梨県(同7・7人)▽長野県(同9・1人)▽宮城県(同9・6人)▽北海道(同10・2人)▽秋田県(同10・3人)-だった。

 厚労省は「首都圏、中京、近畿地域などの大都市で高い傾向が続いている」と分析。加藤氏は「都市部にはホームレス、外国人など支援や対策が届きにくい社会的な弱者が多い」と語る。最近では、外国から来た子供が予防接種を受けておらず、親などの近親者から感染するなど、外国人の割合が増えてきているという。

 若くて体力があるからといって安心はできない。21年には、お笑いコンビ「ハリセンボン」の箕輪はるかさん(35)が肺結核になり入院。23年にはタレントのJOYさん(29)も肺結核で入院し、話題になった。20~30代の患者は年々減ってきてはいるものの、25年は2688人で、いまだ3千人近い。

 結核は半年ほど薬を服用すれば治るが、医療が届きづらい都市部の貧困層などには感染が広がりやすい。また、「結核は過去の病気」との誤解から、せきが続いても受診しなかったり、受診しても医師が結核を疑わず発見が遅れたりすることもある。JOYさんの場合も、病院に行ったもののすぐには肺結核と診断されなかったという。その間に周囲に感染が広がると、集団感染が起きることもある。

 3月11日には、東京拘置所から札幌刑務所に移送された50代の男性受刑者が結核と診断され、両施設の入所者計25人が集団感染していたことが分かった。結核研究所が15~25年までに起きた結核の集団感染を分析したところ、18%が病院、6%が社会福祉施設で起きていた。毎年40件ほどの集団感染が起きており、高齢者や体力が落ちている人が多い施設では特に注意が必要だ。

 こうした現状から、厚労省や結核対策を行うNGOなどは、世界の結核を減らそうと20年から始めた「ストップ結核ジャパンアクションプラン」を今年から改定。初めて国内向けの対策を明記し、32年までに「低蔓延国」(10万人当たり10人以下)を目指す目標を定めた。加藤氏は「過去の病気と思われて、対策の予算や関心が減ってしまわないように、今きちんと対策を取ることが重要だ」と話す。

 一方、技術革新の分野から国内外の患者を減らす取り組みにも期待が集まる。世界では治療薬が効かない「多剤耐性結核」が問題となってきており、新たな治療薬の必要性が増している。そんな中、大塚製薬(東京都千代田区)は昨年、欧州と日本で多剤耐性肺結核の治療薬「デルティバ」の販売の承認を受けた。日本では約40年ぶりとなる結核の新薬だ。同社は「高蔓延国などでも承認を取得できるよう努める」として、世界の人口の3分の1が感染するとされる結核の流行終息を支援していくという。