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「自社株を買い取り、株価を上げろ」 優良企業ファナックに米ファンドが「物申す」

 アクティビスト・ファンドに代表される「物言う株主」の日本での活動が活発化している。株価を上昇させた後に保有株を売却して利益を稼ぐ目的は従前と一緒だが、対象企業に中長期的な成長力を高める提案を行い、経営陣と連携して企業価値を高めようとするファンドも増えている。

 政府が成長戦略で生命保険や信託銀行などの機関投資家に投資先への「厳格な経営監視」を求めていることもファンドの活動を後押ししている面がある。

■「好業績に比べて株価が著しく過小評価されている」

 最近の攻防の舞台になったのは、山梨県忍野村に本社がある産業ロボットメーカーのファナックだった。取引先には米アップルやテスラ・モーターズ、韓国サムスンなどのグローバル企業が名を連ねる高収益企業だ。これまでメディア対応や株主への情報発信を積極的に行ってこなかったこともあって、「知る人ぞ知る」優良企業だった。

 同社の株が2月以降、東証1部で連日高値を更新し、市場関係者の話題になっている。理由はアクティビストとして著名な米ファンド、サード・ポイントが同社株を買い付け、上位10位以内の大株主に浮上したことだ。

 サード・ポイントは2月上旬にファナックの主要株主に書簡を送り、「好業績に比べて株価が著しく過小評価されている」と訴えた。同社の2015年3月期の純利益は前年比67%増の1851億円の予想。過去の利益が積み上がり、昨年末時点の「利益剰余金」も1兆4000億円に膨んでいる。サード・ポイントは「1株あたりの価値を高める株主還元策を実行すべき」として、約8000億円に積み上がった現預金で自社株を買い取るよう経営陣に求めたのだ。

「本業を伸ばす地道な活動で企業価値を高める」

 同社のダニエル・ローブ最高経営責任者(CEO)は、水面下で稲葉善治社長などファナック経営陣との接触を求めているが、ファナック側は今のところ応じていないようだ。一方、同社は2月16日、約1300億円を投じて栃木県内に工作機械部品の新工場と研究所を建設すると発表した。稲葉善治社長は一部メディアの取材に応じて「本業を伸ばす地道な活動で企業価値を高める」として、ファンドの要求には応じない姿勢を示唆した。

 サード・ポイントは、業績不振に苦しむソニーへの投資で一躍名をはせた。2013年春に同社の株を取得し、ピーク時には発行済み株式の7%程度を保有。ローブCEOがソニーの平井一夫社長と面会し、映画・音楽やゲームなどソニーのエンターテインメント事業を分離し、米国で上場するよう提案した。ソニーは「テレビなどのエレクトロニクス事業とエンタメ事業は一体運営すべきだ」と提案を拒否したが、エンタメ事業の情報開示を拡大し、コスト削減を徹底する収益向上策を発表。サード・ポイントは保有株を売却し、20%近い売却益を確保した。

「ハゲタカ」のイメージが根強く残る

 ファナックとサード・ポイントの水面下での交渉の詳細は不明だが、サード・ポイント側は「2月に発表した設備投資だけでは十分ではない」としており、ファナックが新たな対応策を打ち出す可能性もあるとみる関係者が多い。

 海外の投資ファンドによる日本でのアクティビスト活動は、これまでも繰り返されてきた。だが、米スティール・パートナーズによるブルドックソースやサッポロ・ホールディングスへの買収提案のように、ほかの株主の賛同を得られず撤退した例が大半だ。株主だけでなく従業員や取引先、立地自治体などすべての利害関係者(ステークホルダー)を重視する日本的な商習慣を理解せずに専ら株の転売益を狙うという「ハゲタカ」のイメージが根強く残っている。

 だが、ファンド側も過去の失敗を教訓に、日本での投資銀行業務や企業経営に通じたスタッフをそろえ、経営内容を詳細に分析した成長戦略の提案を行うなど「より洗練された」アクティビスト活動を重視し始めている。

サーベラスは経営陣との「対話型」活動に軸足

 西武ホールディングスに対し、不採算の一部鉄道路線や球団売却の検討を要請していた筆頭株主の米ファンドのサーベラスは、2014年10月までの「ロックアップ期間」を過ぎても保有株を売却しなかった。西武の後藤高志社長は「サーベラスは一連のリストラ提案をすでに取り下げた。今も友好的で強い信頼関係を構築している」と説明する。西武の業績はアジアからの観光客増などを受けて好調で、株価も高値で推移している。サーベラスは経営陣との「対話型」の活動に軸足を移したとみられている。

 政府は14年6月に策定した成長戦略「日本再興戦略」に、複数の社外取締役選任などを求める「コーポレートガバナンス・コード」や、機関投資家などが投資先への厳格な経営監視を求める「スチュワードシップ・コード」の策定を盛り込んだ。企業経営に残る「甘え」を断ち切り、経営者に緊張感を持たせることで潜在的な成長力を引き出す狙いからだ。

 アクティビスト・ファンドの影響力が高まっている背景には、「物言わぬ株主」だった機関投資家などが、ファンド側の説得力のある提案に同調する動きが広がりかねないという企業側の危機感がある。