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リニア中央新幹線に早くも“愛称論争”勃発 「富士」有力?

リニア中央新幹線の工事実施計画が認可され、日本独自の超電導リニア技術を高速鉄道に導入した「夢の超特急」がいよいよ実現に向けて動き出す中、早くも列車愛称に「富士(Fuji)」を推す声が高まっている。東京・品川から名古屋までの開業は平成39(2027)年とまだ先だが、「世界最速の列車にこそ、『富士』がふさわしい」との声は根強い。これに対し、57(2045)年に大阪まで延伸してはじめて全線開業となることから、関西の鉄道ファンからは「どうせ富士山なんか見えないんだから『浪速(なにわ)』がいい」という声も。愛称をめぐり、リニア着工前からにわかに熱を帯び始めた。(大竹直樹)

 ■最古の愛称をリニアに

 「みらい」「きぼう」「ゆめ」「おもてなし」…ネット上では、リニアの愛称を予想する声が飛び交っている。

 中でも有力視されているのが「富士」だという。富士は日本一の山。古来信仰の対象となってきた日本人の魂でもあるから異論はないが、なぜ夢の超特急に「富士」なのだろうか。

 列車の愛称や歴史に詳しい作家の小牟田哲彦氏は「日本一の山の名で風格もあり、『富士』は世界を代表するリニアの名にこそふさわしい」と話す。

 「富士」は日本最古の列車愛称。昭和4年に「富士」の名が付けられ、最後尾に富士山をかたどったテールマークも装着された。

 この列車は明治45年に走り始めた。新橋(東京)と下関(山口)を結ぶ1、2等車のみの豪華特急だ。下関では朝鮮半島の釜山に向かう連絡船と接続。南満州鉄道やシベリア鉄道を経て、東京からヨーロッパへと乗り継ぐことができた国際列車だった。

 東海道新幹線が開業した昭和39年10月には、東海道・山陽、日豊線経由で東京と西鹿児島(現鹿児島中央)間約1570キロを結んだ日本最長列車の寝台特急に「富士」と命名された。青い寝台客車「ブルートレイン」の代表格だったが、平成21年に惜しまれつつ廃止された。

 日本で最も古い列車愛称が、最新の超電導技術を導入した世界最速列車で復活する可能性はあるのか。

 ■リニアのために温存?

 鉄道アナリストの川島令三(りょうぞう)氏(63)は「世界遺産になった『富士』以外は考えられない」と強調し、こんな見方を示した。

 「JR各社の間では、リニア以外の列車には使わないとの暗黙の了解がある」

 21年に廃止された寝台特急「はやぶさ」はその後、東北新幹線の最速列車に再び名付けられ、同様に廃止された寝台特急「さくら」や「みずほ」も九州・山陽新幹線の愛称として復活したが、「富士」はその後ずっと再登場していないというのが理由だという。

 作家の小牟田氏によれば、国鉄時代には、列車愛称の命名にも慣例や法則があった。同じ区間を走る特急でもスピードや車内設備に差があれば別の愛称を付け、おのずと「格式の差」が生まれたというのだ。

 23年3月、九州新幹線が開業した際、山陽新幹線直通の最速列車が「みずほ」と命名されたことで、鉄道ファンの間で愛称の“格”論争が起こったことはあまり知られていない。

 「みずほ」といえば、新大阪と鹿児島中央を結ぶ速達タイプの優等列車だが、九州新幹線の愛称として採用されるまでは、停車駅の多い「さくら」や各駅停車タイプの「つばめ」よりも格が下の愛称だったというのだ。たかが愛称、されど愛称とあなどるなかれ。

 「つばめ」は戦前、東京と大阪を結んだ当時の最速列車だった「超特急・燕(つばめ)」が前身。戦後も1等展望車を連結した名門列車で、国鉄のシンボルマークに採用されたり、国鉄の球団名(後のヤクルトスワローズ)に使われたりもした。

 「みずほ」は東京と九州を結ぶ寝台特急だったが、寝台特急のエースは「さくら」で、「みずほ」は補完的役割を担う脇役だった。

 みずほ(瑞穂)は実り豊かな国を表す日本国の美称だが、鉄道の愛称の中では脇役だったため、異例の“出世”に「もっと伝統と格式に配慮してもよかった」(小牟田氏)という声も上がったのだろう。

 つまり、「富士」であれば、世界最速の列車であっても、格において申し分なし、ということのようだ。

 ■JR東海は困惑…

 富士山麓の山梨県富士河口湖町観光課の清水勝也係長(50)は「日本の象徴という意味で、『富士』を使ってもらえるのであれば光栄だ」。河口湖商工会の担当者も「リニアの愛称が『富士』になったらうれしい」と期待を寄せる。

 世界文化遺産に登録された富士山ならば外国人にも知名度がある。地元でも期待は高まりつつあるようだが、JR東海は愛称について、「まだ先の話なので未定」としている。それもそうだろう。そもそも、従来の新幹線とは異なる全く新しい乗り物に、日本語の愛称が付く保証はない。

 航空機の便名のようにアルファベットや数字で区別される可能性だってある。

 だが、関係者からは「各駅停車と途中駅通過の速達列車が混在する予定なので、愛称を付けないとわかりにくくなる」との声も聞かれた。だとすれば、速達タイプと各駅停車タイプの最低2種類の愛称が名付けられるかもしれない。

 ■浪速は「速い」

 「トンネルばかりで車窓から富士山がほとんど見えないのに、『富士』とはいかがなものか」と注文を付けるのは、「撮り鉄」歴45年という兵庫県芦屋市の会社員の男性(53)だ。

 中央リニア新幹線品川-名古屋間約286キロのうち、地上走行部分は全体のわずか13%の約38キロ。その地上区間もJR東海は防音壁やコンクリート製の防音防災フードで覆う方針を示している。富士山をゆっくり眺める余裕はなさそうだ。

 山梨県の横内正明知事は「下水道管という感じ」と苦言を呈したが、騒音防止や安全のためとはいえ、あまり車窓が楽しめる様子ではない。そこで、関西の鉄道ファンの男性は「大阪らしい愛称がいい。浪速(なにわ)には速いという字も入っている。世界一速いリニアにうってつけ」と話す。

 「なにわ」はかつて大阪と東京を結んでいた急行列車の愛称。客車急行時代には約9時間以上かけて運転されていた。近年は、お召し列車や臨時列車に使われるJR西日本のジョイフルトレイン「サロンカーなにわ」にも採用されている。

 大阪府在住の鉄道タレント、古谷あつみさん(28)は「リニアの愛称は『富士』か『きぼう(希望)』が選ばれるんだと思う」と冷静だが、「でもやっぱり大阪人としては『浪速』がいいな。海外の人にも大阪をもっと知ってもらいたいから」と話した。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141117-00000538-san-bus_all